〈木彫〉

私たちのルーツである縄文人の遺跡から発掘された繊細な装飾品をみても、人間にはすでに遠い昔から美を求める感性があることがわかります。昔のアイヌの物語では、「木彫のうまい男、針仕事のうまい女」が一目置かれる人として登場します。アイヌ民族の代表的な木彫としてイクパスイというカムイノミに使われる木の棒のようなものがあります。それは売り買いされるものではなく、相手を思いながら差し上げるために作られます。客室に飾るイクパスイが欲しくても、お金で買うことはできません。頂いているのです。それはとても個性的なものが多く、クマやシャチや鶴がいたり、文様だけのものがあったりと人に合わせていろいろなデザインがあります。

■藤戸竹喜氏の彫刻

阿寒湖の木彫作家に藤戸竹喜氏との仕事で、アイヌのトーテムポールを中心にしたギャラリーラウンジがあります。藤戸氏がトーテムポールを掘りながらおばあさんから語り継がれてきた物語を話してくれました。工芸にはその土地の歴史や言い伝えが込められているのです。

木彫を彫る藤戸氏

2012.07

北海道 阿寒湖

「あかん湖鶴雅ウィングス」

「イランカラプテ」という名前のラウンジです。「イランカラプテ」とは、アイヌ語の挨拶で「こんにちは」という意味ですが、「あなたの心にそっと触れさせててください」という気持ちを表したようです。藤戸氏の木彫が「イランカラプテ」とお迎えするラウンジになりました。

■カムイミンタラに住む神々 藤戸竹喜 作

カムイミンタラとは、神々が集い遊ぶ庭という意味だそうです。この作品は、そこに住まう藤戸氏の考える神々を表現したトーテムポールです。

トーテムポールはアラスカやカナダの北方民族の村や自然を守ってもらうために各部族の守護神として作られたそうです。アイヌ民族には存在しないものですが、藤戸氏のアイヌ民族としてのトーテムポールはアイヌの物語を語っています。

上段から、不思議なコタンコロカムイがいます。コタンコロカムイは村の守り神であるシマフクロウのことです。もっとも格の高いカムイと言われています。そのコタンコロカムイの腹には人間がいてその下には渡りガラスがいます。これらが一体となってアイヌモシリ(アイヌの大地のこと)を守っているということです。

中段には、二つの耳を持つカムイベレ、熊の神がいます。カムイチェップ、鮭の神を両手で持っています。カムイペレの外側の大きな耳は良い話をきくためで、内側の小さな耳は気をつけるべき話を聞くための耳だそうです。

どうやら、カムイベレとカムイチェップとは話をしているようです。

カムイベレ 「お前を半分いただこう」

カムイチェップ「私はふる里の川に子孫を残してきたから思い残すことはありません。」カムイベレ「それでは遠慮なく半分食うぞ。残りの半分は森に分け与えて大地の栄養としよう。」

下段には、イルシカェカシがいます。イルカシとは怒るという意味でエカシは長老のことです。怒る長老ということでしょうか。歯は欠け手を握りしめ足を踏ん張っています。イルシカェカシはこう言っているそうです。「俺は怒っている。自然破壊はもうたくさんだ。森や山、川や海、もうこれ以上壊さんでくれ。」

このトーテムポールを掘りながら、藤戸先生にいろんな話を聞きました。このイルシカェカシの歯が欠けているのは、おばあさんから聞いた話が元になっていると思いました。和人との交易の席で出された黒豆を噛んだらそれは石だったそうです。アイヌは出されたものは残さないということで、石とわかっても歯が欠けても食べたという 言い伝えです。

この大きな彫刻の素材は楠です。楠のいい香りが藤戸先生の思いとともにこの空間に漂っています。

■滝口 政満氏の彫刻

阿寒湖でよく仕事をご一緒させていただく彫刻家、滝口政満 氏。やさしい彫刻をつくられる方です。空間に合わせて私が絵を書き、カウンターや扉や彫刻をお願いしています。鄙の座が最初にやっていただいた仕事でした。ウエルカムラウンジに大きな羽を広げるコタンコロカムイ(村のまもり神であるシマフクロウのこと)を鄙の座のシンボルとしてアイヌ文様のある椅子とともに彫っていただきました。

2004.12

北海道 阿寒湖

「あかん湖鶴雅別荘 鄙の座」

鄙の座の土間ギャラリー。はじめてお会いして、最初にやっていただいた仕事でした。大きな羽を広げるコタンコロカムイ(村のまもり神であるシマフクロウのこと)を鄙の座のシンボルとしてアイヌ文様のある椅子とともに彫っていただきました。

2007.06

北海道 網走

「あばしり湖鶴雅リゾート 北天の丘」

北天の丘のバーラウンジ。北天の丘のマークにもなっている北天を駆ける大鷲を鯨を掘っていただきました。滝口先生にとっても鯨は初めての挑戦でした。暖炉の周りを取り囲むように配置されています。

2012.07

北海道 阿寒湖

「あかん湖鶴雅ウィングス」

あかん湖の二つの館と湖に向かう連結通路に鶴の翼を掘ってもらいました。アイヌ文様とともに鶴が飛び立つイメージを作りました。

2013.07

北海道 ニセコ

「昆布温泉鶴雅別荘 杢の抄」

杢の抄の玄関扉。無垢板に杢の抄のマークを掘ってもらいました。

2003.07

東京 東銀座

「新橋演舞場」

新橋演舞場の正面フロント。戦災で消失した建物の一部として残されていた陶板のレリーフタイルがとても美しかったので、木彫として復元してみました。

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